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東京地方裁判所 昭和44年(ヨ)2335号 判決 1971年4月06日

申請人

佐々木栄治

申請人

伊藤重孝

右両名代理人

東城守一

外三名

被申請人

右代表者

植木庚子郎

右指定代理人

武内光治

外三名

主文

本件仮処分申請をいずれも却下する。

訴訟費用は申請人らの負担とする。

事実

第一  当事者双方の求める裁判

一  申請人ら

申請人佐々木栄治が郵政省岩手県宮古郵便局保険課に勤務すること

申請人伊藤重孝が同郵便局庶務会計課に勤務することを仮に定める。

訴訟費用は被申請人の負担とする。

二  被申請人

主文同旨

第二  申請の理由

一(当事者)

申請人らはいずれも郵政省職員として、申請人佐々木は同省岩手県宮古郵便局保険課に、申請人伊藤は同郵便局庶務会計課に勤務していた。

二(被保全権利)

(一)  被申請人(宮古郵便局長荒瀬真幸)は、昭和四四年七月一日付をもつて、申請人佐々木を同郵便局郵便課郵便外務係に、申請人伊藤を同郵便局郵便課内務係にそれぞれ配置換する旨発令した。

(二)  しかし、被申請人のなした右配置換の意思表示(以下、「本件配置換命令」という。)は、次の理由により無効である。

1  本件配置換命令は、申請人らの同意なくしてなされたものである。すなわち、

労働者がその労務の提供を行うべき、就業の場所と従事する業務の種類は、労働契約の重大な要素をなすものであつて、その変更は労使の合意を必要とし(労働基準法施行規則五条一号参照)、公務員の配置換についても、本人の承諾がない限り、これをなしえないものというべきである。しかも、郵政省は、現在、本人の承諾なくして職員に対し配置換を行う法律上の根拠を全くもつていない。

したがつて、本件配置換命令は、申請人らの賃金、労働時間、労働の種移に変動を生ずること明白であつて、申請人らの同意なしにこれをなしえないものである。

2  申請人伊藤に対する本件配置換命令は、被申請人の不当労働行為である。すなわち、

同申請人は、全逓信労働組合(以下、「全逓」という。)の組合員で、積極的、かつ有能な活動家であり、昭和三二年全逓宮古地方郵便局支部青年婦人部長、同三三年同支部執行委員、同三四年同支部青年部長、同三五年、同三六年同支部執行委員、同三七年、同三八年全逓岩手地区本部執行委員、同三九年同支部副支部長、同四〇年ないし四二年同支部長、同四三年同支部副支部長等を歴任したものであるが、昭和四三年七月二九日荒瀬真幸が宮古郵便局長として就任して以来、同局長は、全逓宮古支部の破壊にのりだし、ことに、当時副支部長の地位にあつた同申請人に対しては、休暇の不承認、団体交渉の申入れに対する忌避、わずか一五秒程度の遅刻に対する叱責などのいやがらせを繰返してきた。したがつて、同申請人に対する本件配置換命令は、同申請人が組合活動に従事している者であることの故をもつてなされたものである。

3  本件配置換命令は、以下述べる事情の下においてなされたもので、権利の濫用というべきである。すなわち

(1) 申請人佐々木について

同申請人は、昭和二六年三月一日以降宮古郵便局郵便課主任として勤務し郵便外務の業務を担当していたところ、同三八年一二月頃から全身倦怠、食欲不振、心悸亢進、呼吸促進等の症状を覚えるようになり、医師の診察を受けた結果十二指腸球部に極度の変形があることが判明し、同月二五日入院して手術をうけ、同三九年六月いつたん退院したが、同年八月急性肝炎、胃欠損貧血、食道憩室と診断されて再入院して加療を続け、その後も数カ月間通院加療を行うことを前提として、同一一月ようやく退院した。しかし、退院後も、健康状態は相変らず芳しくなく、かなりの重労働である従前の郵便外務の職務に復帰することは健康上耐えられないことが明らかであつたので、当時の局長に対してより軽易な業務への配置換を要請したが、定員配置上主任のままでの配置換は困難であるとの回答がなされたため、やむをえず主任降格願を提出し、その結果同年一〇月二六日付で同郵便局保険課に配置換され、もつぱら集金業務に従事してきたもので、本件配置換命令当時も健康は十分回復せず、医師も外勤等の過激な労務に従事することは不適当であると診断しているものである。

したがつて、このような事情の下においてなされた本件配置換命令は、同申請人の生命に危険をもたらすものというべきである。

(2) 申請人伊藤について

同申請人の父は高令のため勤務先の会社から退職を迫られており、母は神経痛の持病のため病弱で、家事の手伝をするものが必要であつたので、同申請人は長男としてその扶養をすべき立場にあつたが、同申請人が配属されていた宮古郵便局郵便課内務係は勤務時間が職務の性質上変則的であるため、勤務時間によつては通勤にバス、国鉄を利用できないことがあるので、やむをえず宮古市内に居住し、同申請人の代りにその妹夫婦に両親と同居してもらつていた。そして、昭和四二年四月同申請人は、定時勤務の庶務会計課に配置換され、現住所地からの通勤が可能となつたので、同四四年三月同申請人一家は妹夫婦と交代して両親と同居するにいたつた。しかるに、右転居後わずか三カ月にして本件配置換命令がなされ、そのため、申請人は再び現住所地からの通勤が不可能になつたものである。

三(保全の必要)

申請人らは、本件配置換命令により賃金、労働時間、労働の種類についていちじるしい不利益を長期にわたり蒙むることになるので、本件仮処分申請に及ぶものである。

第三  訴訟要件に関する被申請人の主張

本件仮処分申請は不適法である。すなわち、本件配置換命令は、以下述べるように行政事件訴訟法四四条にいう「行政庁の処分」に該当するから、民事訴訟法上の仮処分によりその効力の停止を求めることは許されない。

一  本件配置換命令は、国家公務員法(以下「国公法」という。)三五条、人事院規則八―一二(職員の任免)に基づき、申請人らの任命権者である宮古郵便便局長がなしたものであり、申請人ら郵政省職員を含む五現業関係の職員(以下「五現業公務員」という。)の勤務関係は公法関係であつて、本件配置換命令は、実質的にも形式的にも行政処分であることは明らかである。すなわち、

(一)  非現業の一般職国家公務員(以下、「一般公務員」という。)についての任免、分限、服務および懲戒等の勤務関係は、すべて法律および人事院規則によつて規律され、任命された特定個人としての公務員は、このような法関係の下に立たしめられるものであり、また、このような公務員に対する任免、分限、服務および懲戒等に関する行政庁の行為が、国の行政機関として有する行政権の行使であり、行政処分であることは異論がない。

(二)  ところで、公共企業体等労働関係法(以下、「公労法」いう。)四〇条は、五現業公務員について、国公法の規定のうち一定範囲のものの適用を除外しているが、これら職員の勤務関係の基本をなす任免、分限、懲戒、保障および服務の関係については、極く限られた一部の規定がその適用を除外されているだけで、同法第三章第三節の試験および任免に関する規定(三三条ないし六一条)、第六節の分限、懲戒および保障に関する規定(七四条ないし九五条)、第七節の服務に関する規定(九六条ないし一〇六条)のほとんどは、一般公務員の場合と同様、五現業公務員にも適用されまた、これらの規定に基づく「職員の任免」に関する人事院規則八―一二、「職員の身分保障」に関する同規則一一―四、「職員の懲戒」に関する同規則一二―〇、「不利益処分についての不服申立」に関する一三―一、「営利企業への就職」に関する同規則一四―四、「政治的行為」に関する同規則一四―七、「営利企業の役員等との兼業」に関する同規則一四―八等も同様適用されている。

(三)  もつとも、五現業公務員については、公労法八条が一定の団体交渉の範囲を法定し、その限度において当事者自治の支配を認めているが、しかし、このことだけから、ただちに、五現業公務員の勤務関係の法的性格を一般的に確定しうるものではなく、右のような国公法および人事院規則の詳細な規定が右勤務関係の実態をどのようにとらえて法的規制をしているかが検討されなければならないのであつて、右規律を受ける五現業公務員の勤務関係は、公労法四〇条によつて適用除外されているものを除き、一般公務員と同様の公法的規制を受ける勤務関係というほかはないのである。

(四)  また、配置換と他の任用方法との関係についてみても、国公法三五条は、職員の任用方法として、採用、昇任、降任、転任(配置換を含む。)を定め、人事院規則八―一二、六条は、同じく任用方法として採用、昇任、転任、配置換、降任を定め、いずれも、官職に対する任命行為としては、配置換を他の任用方法と同列に扱つており、手続面については、同規則七五条一号は、採用、昇任、転任、配置換等に際しては人事異動通知書を交付して行なうこととし、同規則八〇条は、人事異動通知書の様式、記載事項についての定めを置き、配置換も、他の任用方法の場合と同じく、厳格な要式行為によつて行うこととなつている。

(五)  さらに、任用方法の一つである降任については、職員に対しその意に反して行なわれた場合には、職員は、人事院に対し不服申立をすることができ(国公法八九条一項、九〇条一項)、さらに、抗告訴訟の提起が可能であるが転任、配置換についても、これが特段の事情によりいちじるしく不利益な処分となる場合には、同様、人事院に対し不服申立をし、抗告訴訟の提起もできるのである(国公法八九条一項)。

二  なお、公労法八条二号によれば、昇職、降職、転職等の基準に関する事項が団体交渉の対象となつており、配置換の基準もこれに含まれるとしても、配置換の基準と配置換の行為とは厳格にこれを区別すべきであつて、かりに、配置換の基準が団体交渉によつて決定されたとしても、その基準に基づいて行なわれる配置換の行為そのものがただちに行政処分たる性質を失なうものでないことはいうまでもない。したがつて、配置換の基準が団体交渉事項となつていることから配置換の法的性質を決定することは、形式的にも実質的にも不可能である。

第四  申請の理由に対する被申請人の答弁

申請人らの申請の理由のうち一および二の(一)の各事実は認めるが、その余は争う。

第五  被申願人の主張に対する申請人らの反論

一  現行実定法上、国家公務員関係を特別権力関係と解すべき余地はほとんどなく、公務員関係とは「原則として全部的に公務員法令によつて規律された特殊な労働契約関係」であり、公務員の勤務関係についてなされた具体的な措置が、行政事件訴訟法にいう行政庁の処分に該るか否かは、個々具体的に実定法に基づいて判断すべきもので、一般的抽象的に公務員の勤務関係に関する措置が行政庁の処分であるか否かを論ずるのはあやまりである。

したがつて、国家公務員の法律関係における行政庁の行為といえども、そのすべてが当然に行政処分であるわけではなく、むしろ、明文の規定の存しないかぎり、私企業における労働契約関係と同様の性質のものと解すべきである。

二  さらに、申請人らは公労法の適用をうける職員(公労法二条一項二号イ、同条二項二号)であるから、一般公務員と異なり、労働組合法、労働基準法、労働関係調整法、最低賃金法等の適用を排除されていない(公労法四〇条一項一号、国家公務員法附則一六条)。そして、公労法八条によれば、賃金その他の給与、労働時間、休憩、休日および休暇に関する事項(一号)、昇職、降職、転職、免職、休職、先任権および懲戒の基準に関する事項(二号)、労働に関する安全、衛生および災害補償に関する事項(三号)、その他労働条件に関する事項(四号)は団体交渉の対象とされ、これについては労働協約を締結することができるものとされている。

三  このように、五現業公務員の労働条件は、一般公務員が労働協約締結を否認されて、そのすべての労働条件がもつぱら法律と人事院規則の定めるところに委ねられ、あらかじめ使用者と対等の立場で交渉し決定することが全然許されていないのと異なり、使用者と対等の立場において交渉し決定されることとなつているのであつて、これは、私企業において労働条件が決定される過程と全く同一であり、そこには公権力の意思に優越的な地位を認むべき契機はなんら存しない。

すなわち、五現業公務員の場合には、公労法が原則的に労働条件に関する事項を団体交渉事項と確認したことによつてみても、配置換等の労働条件に関する行政庁の行為が行政処分に該当しないことが一般公務員の場合よりもより一層明瞭であるといえる。

四  被申請人は、本件配置換命令は国公法三五条、人事院規則八―一二に基づいてなしたものであると主張するが、右規定は、官職に欠員が生じた場合の欠員補充の方法を定めたものであつて、任命権者に配置換を行う権限を設定したものではない。このことは、他の欠員補充の方法である採用、昇任、降任については、いずれも他の条項においてこれを行なう場合の要件、手続が定められ、その条項により任命権者に権限が付与されていることが明らかにされているのに対し、転任、配置換の要件、手続についてはなんらの規定もないところからみても明らかである。

配置換が、職員に対し、多大の不利益と困難を課することのあることはいうまでもないことであり、場合によつては、配置換が降任よりも不利益な結果となることも考えられるのであるから、権限付与の規定のない事実をもつて、任命権者が自由に配置換をなしうるものと解することは許されない。

第六  疎明関係<略>

理由

第一被申請人は疎乙第一号証を提出し、申請人らはその成立を認めた。申請人らが、その主張のように、郵政省職員として、申請人佐々木栄治が岩手県宮古郵便局保険課に、申請人伊藤重考が同郵便局庶務会計課にそれぞれ勤務していたところ、申請人らの任命権者である被申請人(宮古郵便局長荒瀬真幸)が、昭和四四年七月一日付をもつて、申請人佐々木を同局郵便課郵便外務係に、申請人伊藤を同局郵便課内務係にそれぞれ配置換する旨発令したことは当事者間に争いがない。

第二被申請人は、本件配置換命令は行政事件訴訟法四四条にいう「行政庁の処分」に該当するから、民事訴訟法に基づく仮処分による救済を求めることができない旨主張するので、まず、この点についする。

一五現業公務員の身分ないし勤務関係の実態は、当該事業の性質からみれば、一般の私企業のそれとなんら異ならないが、しかし、以下述べるとおり、現行実定法の下においては、その身分は一般公務員と同一であり、また、その勤務関係は公法関係と解せざるをえない。すなわち、

(一)  郵政省設置法二〇条(昭和二四年五月三一日法律一五九号)は、郵政省に置かれる職員の任免、昇任、懲戒その他人事管理に関する事項については国公法の定めるところによると規定し、五現業公務員の労働関係について適用される公労法二条二項二号および国の経営する企業に勤務する職員の給与等に関する特例法(昭和二九年六月一日法律一四一号)二条二項は、これらの法律における「職員」の定義として「国の経営する企業に勤務する一般職の国家公務員」と規定し、五現業公務員が一般職に属する国家公務員であることを明確にしている。

(二)  また、五現業公務員の勤務関係の基本をなす任免、分限、懲戒、保障および服務の関係は、被申請人が前記第三、一、(二)において主張するとおり、五現業公務員に対しても、一般公務員と同様、その主張の国公法および人事院規則の各規定がほとんど適用され、これらの規定により規律されており、ただ公労法四〇条三項により、五現業公務員に係る処分のうち労働組合法七条各号に該当するものについては行政不服審査法による不服申立をすることができないとされているにすぎない。

(三)  もつとも、五現業公務員の労働関係については、次のような経緯により現在公労法の適用があり、申請人らが前記第五、二において主張するように国公法、労働組合法、労働基準法、労働関係調整法、最低賃金法等の適用が排除されていない。すなわち、五現業公務員は、昭和二二年制定当初の国公法では全面的に特別職とされていたところ、同二三年の第一次改正で一般職に移され、一般職に与えられている一切の法的保護と制限が加えられることとなつたが、その後いわゆる三公社職員に適用されていた公共企業体労働関係法が同二七年八月一日公労法として改正施行され、同法の適用をうけることとなり、再び団体交渉権、協約締結権を取得したものである。

また、五現業公務員については、申請人ら主張のように、その主張の事項が、三公社の職員と同様、団体交渉の対象とされ、これに関し労働協約を締結することができる等一般公務員の場合とは異なつた取扱いがなされている。

しかし、三公社の職員には、国公法の適用がないのみならず、その法律関係においても、公権力の行使と認められるその他の規定の適用はなく、日本国有鉄道法等の個別法にその職員の分限、懲戒に関する規定が設けられているにすぎない。このような日本国有鉄道法や公労法の規定のたて方を検討すると、現行実定法上、三公社の職員の勤務関係は、むしろ私企業の従業員の勤務関係に近いものとして取扱われており、ただ、特別法によつて個別的な関係で特殊の制約を受けているものとみるのが相当である。したがつて、この点において、三公社の職員は、前記のとおりその身分が一般職の国家公務員であること明らかな五現業公務員と同一の法律関係に立つものということはできない。

(四)  そうすると、五現業公務員である申請人らと郵政省との間の勤務関係は、前記のような私法関係の規定の適用を受ける分野があるにせよ、これをもつて、ただちに、当事者対等、私的自治の原則が支配する私法関係とは解しえず、原則としては、一般公務員と同様、公法的規制の下に置かれているとみざるを得ない。したがつて、現行実定法の下においては、五現業公務員に対する配置換についても、その本質において一般公務員のそれとなんら異なるところはないというべきである。

二申請人らは、一般公務員についても、その法律関係における行政庁の行為がすべて当然に行政処分ではなく、現行実定法上明文の存しないかぎり、私企業における労働契約関係と同様の性質のものと解すべきであつて、本件のような配置換については現行実定法上これを行政処分と解すべき明文が存在しない旨主張する。

(一)  しかし、詳細な法令によつて規制されている現在の公務員関係にあつては、その分野における行政庁の行為の性質につき、行政法上の一般権力関係、特別権力関係というような包括的な概念をもつて一般的抽象的に区別し、これを解明すべきものではなく、現行実定法上、要件法規の規定の仕方とその行為の性質とを個別的に検討したうえ、これが行政庁の処分になるか否か、抗告訴訟の対象となる行政処分であるか否かを判断すれば足りるものというべきである。

そこで、五現業公務員にも適用される国公法等現行実定法の規定について、以下検討する。

1 国公法および人事院規則には一般公務員の任用手続について詳細な規定がなされている。すなわち、

(1) 国公法三三条には、すべて職員の任用は、同法および人事院規則の定めるところにより、その者の受験成績、勤務成績またはその他の能力の実証に基づいてなされ、免職は法律に定める事由に基づいて行われなければならない等職員の任免の根本基準が規定され、同法三五条ならびに人事院規則八―一二(職員の任免)五条および六条によれば、職員の任命には採用、昇任、転任、配置換、降任の種類があることが明らかである。

(2) しかも、右規則七五条一号は、採用、昇任、転任、配置換等に際しては、人事異動通知書を交付して行うこととし、同規則八〇条には人事異動通知書の様式、記載事項についての定めがあり、配置換も、他の任用方法の場合と同じように厳格な要式行為によつて行うこととされていることは、被申請人主張のとおりである。

(3) さらに、国公法五五条には任命権者についての規定がなされ、とくに、同条三項は、任命要件を欠く者を任命してはならない旨規定し、その要件は前記人事院規則において詳細に規定されている。

2 他方、職員の身分については、同法七五条一項により、法律または人事院規則の定める事由によるのでなければ、その意に反して降任、休職、免職されないものとして、その保障がなされ、懲戒についても、その事由は、同法八二条により、国公法および人事院規則に違反した場合、職務上の義務に違反し、または職務を怠つた場合、国民全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあつた場合に限定され、右規定をうけて、人事院規則一一―四(職員の身分保障)および同一二―〇(職員の懲戒)には、それぞれこの点についての詳細な規定がなされている。

(二)  以上の諸規定からみれば、現行実定法上、国家公務員の任命は、配置換命令を含めて、もとより行政処分であることを前提としてそれぞれ規定がなされているものと解せざるを得ない。そして、任命は、国公法九〇条、八九条にいう処分に含まれ、いちじるしく不利益な任命に対する救済としては、同法九〇条九二条の二に基づき人事院に対し審査請求を経た後、抗告訴訟を提起しうるものであり、この点についての詳細は人事院規則一三―一(不利益処分についての不服申立)に規定されている。したがつて、配置換が前述のとおり任命行為の一つである以上、被申請人が前記第三、一、(五)において主張するように、これが特段の事情によりいちじるしく不利益な処分となる場合には、これに対し、当然右同様の不服申立ないし抗告訴訟の提起も可能である。

(三)  なお、五現業公務員については、公労法八条により昇職、降職、転職等の基準に関する事項が団体交渉の対象とされており、本件のような配置換の基準も右団体交渉事項に含まれると解されるが、右は、配置換の基準が団体交渉の対象になることを規定したにすぎないものであつて、被申請人が前記第三、二において主張するように、右規定からただちにその基準に基づいて行われる配置換命令そのものの性質を決定することは相当でない。

第三以上の次第で、本件配置換命令は、行政事件訴訟法四四条にいう行政庁の処分に該る行為と解すべきであるから、同条によりこれに対し民事訴訟法に基づく仮処分による救済を求めることはできないものといわなければならない。

よつて、本件仮処分申請はいずれも不適法として却下すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(田宮重男 長西英三 島田礼介)

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